NHDK学芸文教委員会がリーダー実践力育成「大垣塾」...
美容協同組合日本ヘアデザイン協会(以下NHDK、横田敏一理事長)は、学芸文教委員会(加藤待子委員長)の企画...
河原永吾氏の執筆による『1店舗経営のススメ』。実話を基にした「失敗」&「成功」のエピソード13篇を収録する他、1店舗経営で利益を高めるコツや失敗しないための注意点など、著者の提言も数多く盛り込まれている。
購入特典として4月21日(木)開催の「失敗しない店舗経営セミナー」にご招待。その申し込み締め切りは目前の4月14日(木)。興味をお持ちの方は、お買い忘れのないように。
放置するの巻
その男性のサロンは街の中心地に立地しており、繁盛店ながらも、古い雑居ビルの中で35坪。少し目立ちにくい場所でした。
あるときその彼は、美容ディーラーと銀行からの強いすすめで店を移転することにしました(※1)。新しい店舗は、旧店舗に程近い中心地に立地し、店舗面積は60坪以上。家賃は70万円を超えましたが、とてもおしゃれなサロンになりました(※2)。
新店は瞬く間に有名になり、スタッフも20人に増えました(※3)。いつしか彼の下には何人もの美容室経営者が相談に訪れるようになりました(※4)。彼はその都度、その日の売上の端数(1000円単位)をレジから抜き(※5)、彼らの相談に乗りながら、食事やお酒を振る舞いました。そして、少し見えを張りたい気持ちもあり、領収書は切りませんでした。
しばらくして、彼は自分のサロンの異変に気付きます。売上は伸びているのに、赤字が出始めたのです(※6)。理由の分からない赤字に疑問を抱きながらも、日々の忙しさに追われ、そのまま月日がたっていきました。
数年がたち、彼はもう一つの異変に気付きます。貸借対照表(バランスシート)上で役員貸付が累積で1000万円を超えていたのです(※7)。彼はその意味と原因が分からず、そのままにしました。
サロンはずっと大繁盛しているにもかかわらず、徐々に店の預金が底を突きはじめました。彼は、苦境の打開策として、銀行からの融資の誘いを受けて2店舗目を出店することにしました。しかし、この時、銀行から借りたお金の金利が年利2.5%を超えている(※8)ことは、あまり気に留めませんでした。
2店舗目も、初月は、そこそこの売上を上げ順調に見えましたが、売上の大半がクーポンサイト経由の集客によるものだったため、なかなか利益が出ませんでした。
翌年。通帳残高を上回る法人税と消費税の納税義務が生じました。高い売上が上がっているのに、現金がなかったのです(※9)。その後、銀行からの借り入れを繰り返し、気が付けば、貸借対照表上で役員貸付が累積で2000万円を超え、長期借入金は4000万円を超えていました(※10)。
数年後、そのサロンは、消えてなくなっていました。
失敗のポイントはどこかな?
エピソードを読み解いてみよう。
(※1) はい!出ました!! 美容ディーラーと銀行のセールストーク! 第1話でも解説した通り、彼らは、彼らの利益追求のために、私たちサロンに自分たちの「商品」をすすめてきます。ただし、中には、自分たちサイドと同様にサロンの未来についても真剣に考え、大切にしてくれる人たちも必ずいますので、付き合うディーラーや銀行は自分の目できちんと選んでください。
(※2) これも第1話でお伝えしましたが、家賃比率は売上の10%以下に抑える必要がありますから、この家賃だと月間売上が700万円以上必要になります。そもそも、旧店舗は狭くない上にはやっていたわけですから、経営上はお金をかけて移転する必要がありません。あえて悪く言えば、「無駄にお金のかかる、見えを張るためだけのサロン」をつくったということでもあるのです。
(※3) このサロンは家賃が高く、また法人ならば、社会保険加入が義務とされるので、生産性が最低60万円必要になります。つまり毎月1200万円以上の売上が必要なのです。達成不可能な数字ではありませんが、かなりのリスクを伴います。
(※4) 先輩経営者は、後輩経営者に、成功体験より失敗体験を伝えていただけるとよいのですが、この時点では、まだ失敗に気付いていないので、正直、相談に訪れた経営者にとってマイナスのアドバイスしかできていません。
(※5) 今までたくさんのサロンのコンサルティングを行なってきましたが、レジからお金を抜いている経営者、かなり多いです。端数を抜いて銀行に入金しても、その日の売上と数字がズレるわけですから、税理士はお手上げです。つまり、足りない数字は全て「社長(役員)貸付」になります。この科目の数字が膨らむと、銀行からの評価は大きく下がります。
(※6) 実は多くのサロンがこの病気にかかっています。お金が足りないという理由で銀行からお金を借りると、何かを買うために借りたわけではないので、当然、その借入は「経費」になりません。つまり利益から返済することになりますから、第1話でもお伝えした通り「約1.5倍の法則」が当てはまります。
(※7) 要は、社長がお店から1000万円以上持ち出しているわけです。銀行をはじめ、税理士や世間からは、「お金にだらしない経営者」と認識されます。もちろん、返済には1.5倍の額のお金が必要なのは言うまでもありません。
(※8) 一般的に美容室は現金商売の上、売上の変動が他産業に比べて少ないので、銀行はお金を貸しやすいのです。ただし、経営状態が健全な美容室に適切な金額を金利1.5%以上で貸し付ける銀行は、このご時世まずないので、金利2%を超えているということは、正直、銀行からの評価がかなり低いといえます。
(※9) (※6)をそのままにしておくと、こうなります。
(※10) 仮に減価償却がないと仮定した場合、返済するには、2000万円+4000万円×1.5=約9000万円の営業利益が必要になるので、まとめると、ジ・エンドです
経営者失格
今回の問題点は、4つ。 [1]見えを張りたいだけの、目的が不明瞭なサロンの移転。 [2]売上の管理が雑。 [3]バランスシートの見方を理解していない。 [4]店舗を増やせばもうかると思っている。 まずは、ちゃんとした税理士を雇うことを強くおすすめします。ちゃんとした税理士を簡単に見つける方法は、利益を残しているサロン経営者が雇っている税理士を紹介してもらうことです。その上で、経営者自らがファイナンシャルリテラシー(財務の知識)を高めることが必須です。美容室経営も、れっきとしたビジネスです。きちんとした知識をもとにやっていけば、“普通”に大成功できることを念頭に入れていただけたらと思います。
※本記事は、『美容の経営プラン』2018年9月号にて掲載した記事を転載したものです。
※当サイトでは第6話まで公開中です。
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かわはら・えいご/1972年生まれ。岡山県出身。証券会社などでのサラリーマン生活を経て、美容師免許取得。㈱コーチプレシャス代表、経済産業省直轄の専門家講師として、美容室をはじめとしたさまざまな企業のコンサルティングを行なう。美容室・Hair Toto-la代表として、現在も土・日曜日はサロンに立つ。米国NLP協会認定NLPトレーナー・コーチングトレーナー。
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