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神谷 翼[SCREEN]による初のカット教本『THE CUT DESIGN VARIATION』(2021年1月25日発売/女性モード社刊)は、発売から約1ヵ月でたちまち売り切れ、重版に。再販を開始したこの機に、本書の制作背景を聞いた。
制作担当編集・小池入江(以下:小池) 単行本制作のお願いに伺った日から丸1年。神谷さんのカット技術の真髄が詰まった10スタイルを、徹底的に解説したテクニックブック『THE CUT DESIGN VARIATION』が完成しました。
実は、「本をつくろう!」と決まった後に、SCREENの銀座出店が決定したり、新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言が発令されて、出店も延期になったり…と、一般的に考えたら、とても本をつくれるような状況ではなくなってしまったんですけれど…でも、完成しました、この本。
神谷 「本をつくれるような状況じゃない」ことを、僕はむしろポジティブに捉えるようにしていました。新型コロナ禍はとても大変な出来事ではありますが、不幸中の幸いとでも言うべきか、思いがけず時間が生まれ、図らずも本づくりにどっぷり集中できましたし、時間の余裕とはうらはらに、どうしても不安が募る気持ちの面でも、本づくりという大きな仕事が自分の指針となって支えてくれた部分があって。
小池 なにしろ、スタイルやテクニックの写真撮影まで、神谷さん自身が手がけられていますものね。
神谷 コンテンツ構成や文章、デザインなど、本をつくるって、“総合芸術”のようなところがあるので、とても勉強になりました。実は、PEEK-A-BOOで働いていた時代、「自分の本をつくってみたいな」と思って、夜な夜な撮影して、プリントアウトして、紙を綴じて本みたいにしてみたりして…いろいろやってたんです、当時アシスタントだった福井(注:現在、SCREENサロンマネージャーの福井優生さん)を巻き込んで(笑)。その時のことを思い出したりしました。夢が叶ったなって。
小池 本書のサブタイトルは、「スタイリストになってからの壁を乗り越えるベーシックの応用カットテクニック」です。この“スタイリストデビューしてからの壁”とは、一体なんですか?
神谷 デビューするまでって、もちろん全ての美容師にとって1つの山で、技術を身に付けるためにコツコツとした訓練が必要な時期ですけれど、実はやるべきことは決まっているし、ジャッジするのもされるのもサロンという“内輪”の中でのこと。だから、あくまで守られている中での苦労なんです。
でも、ひとたびスタイリストデビューすると、お客さまに喜んでいただく方法に正解はないし、学んできたベーシックだけではとても対応しきれない千差万別の素材と要望がある。しかもライバルが「日本中の美容師全員」に突然、増えてしまう。
小池 たしかにそうですね…。乗り越え方どころか、頑張り方がわからなくなりそうです。
神谷 そうなんです。誰しも、デビュー後早々に、「自分って全然何もできないんだ」ということに気が付いて、強烈な焦燥感を抱くんです。それが、“デビュー後の壁”。
小池 なるほど。そういう“壁”にぶち当たっている人が、この本の10点のカットスタイルを切ると、サロンワークの波にうまく乗っていけるようになる、ということですか?
神谷 この10点をマスターすれば、確実に一皮むけると思います。というのも、これらのスタイルは、まさに今のサロンワークでお客さまに求められるデザインですから、完全に切れるようになれば、かなり多くのお客さまに対応できる提案の幅を身につけられるはずです。
とはいえ、この本は、決して全ての人にとっての「正解」を示したものではありませんし、僕にとっても、今現在の「正解」でしかありません。さきほど話したように、サロンワークの「正解」は、目の前のお客さまが喜んでくださることであり、喜んでいただく方法はそれこそ、千差万別。その中で、この本は、自分なりの「正解」に近づくガイドの役割を果たします。
小池 本書は、技術教育をする側の方々にも参考になる本だと思います。シンプルに10スタイルとその切り方が解説されている本なんですけれど、技術の伝達の仕方(言葉での表現の仕方)も試行錯誤しましたものね。
神谷 そこは、これまで僕が業界誌マニアとして(笑)、ありとあらゆる技術解説本を読み込んで感じてきたことを咀嚼して、反映したつもりです。
技術は、説明しすぎたり、細かく定義したりしすぎると、勉強中の人にはかえって伝わらないことが多いと思っていて、あえてファジーに書いたところがある一方、行為としての手の使い方(テクニック)について書くだけでなく、その行為をするときに、頭の片隅でどんなことを考えておくといいのか、または、行為にどんな意識を込めると狙った効果が得られやすいのかを含めて、「僕の場合」を書き込んでいます。
小池 一見すると、シンプルな技術解説書なんですけれど、その中に手の使い方以上のことが書いてありますし、教えるときの言葉の使い方の参考になります。わたしたち編集者も、技術解説の書き方について、改めて考えさせられました。
小池 さきほど、本の制作が“総合芸術”的なもの、というお話がありました。本書をつくる上でも、本の装丁やデザイン、プロモーションの方法まで、神谷さんご自身が細やかにアイデアを出し、実行してくださいました。1つのものを、どう見せていくか、ということを総合的に立案していくことに、強く意識が向いていらっしゃいますね。
神谷 そうですね。僕はおそらくまわりから、「カット大好き」「クリエーション大好き」な人に見えていると思うのですが…まあ、カットもクリエーションももちろん大好きですけど、それ以上に、物事や人をディレクションして、その魅力を最大限に表現していくためのアイデアを練って形にしていくことに一番、興味があるし、やりたいことなんです。
おかげさまで、SCREENはオープンして7年。現在、神戸と銀座に3店舗、スタッフ26人のチームになりました。このSCREENをここからさらにどう展開していけるか——僕も新しいステップを踏み出したいと思っています。
神谷 翼(かみたに・つばさ)[SCREEN]
1984年生まれ。岡山県出身。日本美容専門学校卒業後、PEEK-A- BOOを経て、2014年、兵庫・神戸にSCREENをオープン。翌年には2店舗目となるSISTER. BY SCREEN、2020年には東京・銀座にSCREEN GINZA MAISON.をオープン。顧客ゼロの地にてスタッフ3人で創業し、たくさんのお客さまに支持され、6年で3店舗に成長。全ての技術において理論を追求し、サロンワークを中心に雑誌撮影、国内・海外でのヘアショー、セミナーなど多岐にわたり活躍中。2018年JHA大賞部門グランプリ、2019年JHA大賞部門準グランプリ、2010年JHAライジングスター最優秀賞。
https://screen-8219.com/
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