美容室開業の成功率を高めるために結成されたタカラベルモント㈱の開業支援チームのノウハウが詰まった書籍『美容室の開業~3575軒の開業支援から導き出した店づくりの考え方』(女性モード社刊)。その本筋を大幅に抜粋し、美容室の開業から経営を軌道に乗せるまでの道筋を解説してゆく、全10回シリーズ。
今回は、開業に失敗しないための4ステップ第3回。経営者の理想を具現化するサロン空間を構築してみよう。
美容室の開業 meme mag編
第5回 店づくりを考える4ステップ
メニュー&空間を考える
監修:タカラベルモント㈱開業支援チーム
メニュー&空間の相互作用が価値を高める
ターゲットを定めたら、「そのターゲットを最大限満足させるには?」という視点に立って、メニュー構成&空間デザインの計画に移りましょう。美容室の場合、常にこの2つを相関させながら発想することが、高い顧客満足を引き出すカギとなります。
美容室のメニューは、美容技術の内容がメニュー名になり、価格が設定されていることが多いのですが、顧客が価値を感じるポイントは、美容技術そのものだけではなく、施術を通して自分がよりよく変化する過程やスタッフとのコミュニケーションの内容、そして空間の快適性など、ヘアスタイルの仕上がりという結果に行き着くまでのプロセスを含んでいます。メニュー構成はオペレーションを含めて検討し、それらをサポートするものとして空間を計画すると、提供価値を最大化することができるのです。
提供価値を下支えする〝仕組み〟
顧客にとってのサロンの価値は、左の公式の下に成り立つと考えられます。提供された技術やサービスの価値が、支払った金額の価値を上回れば上回るほど、そして、過ごした時間や空間の価値が、来店するためにかかった手間や時間を上回れば上回るほど顧客の満足度が高まり、「このサロンは総合的な価値が高かった」と認識されます。
一般的に、サービスや時間という項目の価値は、対応するスタッフのコミュニケーション能力など、個人の資質に依存する側面が強いと考えられていますが、美容技術や接客を総合したもの、つまり〝仕組み〟を確立することにより、個人への依存度を軽減し、サロンの提供価値のアベレージを常に高いレベルでキープすることができるようになります。メニュー構成を含む仕組みをフォローするのが、空間デザインや設備、美容機器です。
仕組みは、来店から退店までの〝顧客体験〞を設計することにより立案できます。設計のポイントは、シーンごとに、美容技術に関わることとそれ以外に分けた上で、双方を連動させながらストーリーを描いていくことです。例えば、「髪質に悩みを持つ人とヘアスタイルとのベストマッチングをかなえる」というサロンコンセプトの場合、
カウンセリング
美容技術/解決したい髪の悩みについて確認し、合計金額や所要時間に幅を持たせた3パターンの提案をする
それ以外/好みのアロマオイルを選んでもらい、香りでリラックスしながらスムーズなコミュニケーションにつなげる
【→心理的にリラックスした状態をつくった上で、選びやすい方法でメニューを提案し、顧客の本音と提供価値のミスマッチを防ぐ】
スタイリング
美容技術/ホームスタイリングのアドバイスを交えながら、顧客自身にもその場で髪を
触ってもらう
それ以外/待合や店販棚そばの、スタイリング専用の席に移動してからスタイリングを
する
【→ホームスタイリングやホームケアへの意識を呼び起こし、日々の手入れがしやすいア
イテムへの関心につなげ、提供したヘアスタイルとのマッチングを高める】
というように、提供したい価値に沿って、滞在時間をトータルプロデュースします。
“コース仕立て”でメニュー構成を発想する
「ターゲットを最大限満足させる提供価値」が美容技術だけでないならば、一般的な「カット○○円」「ヘアカラー○○円」というメニュー構成では、その価値が消費者に伝わりません。
適切な方法の1つが、メニューを“コース仕立て”で構成するスタイルです。下図のように提供価値をコース名に据え、その内容に沿って施術内容や使用薬剤、オペレーションを決めると、誰のために、どんな価値を提供するものなのか明確に表現できる上、顧客に説得力を持って提案することができます。そして、コースごとにトータル料金が明確なため、顧客が選びやすいというメリットもあります。また、「提供価値を下支えする“仕組み”」で提示したような計算された〝顧客体験〞は、細やかなタイム管理なくして成立し得ない上、顧客のためにも、コースには所要時間を明記し、厳守することが重要なポイントです。
このように、コース仕立てのメニューは、サロンのコンセプトを反映させ、ターゲットのニーズに沿った価値の訴求がしやすいというメリットがあります。
サロン規模による空間づくりの考え方
サロンの空間デザインも、ターゲットへの提供価値に沿って発想する必要があります。従来、空間デザインは、経営者の価値観やスタッフの動線など、サロン側の都合が基点になっているケースがほとんどでした。しかし、提供価値を最大化するには、施術の工程ごとの顧客目線を重視し、最適な過ごし方が実現できるデザインおよび、顧客とスタッフとのコミュニケーションをサポートするためのレイアウトを構想することが求められます。
空間デザインや設備、美容機器の導入については、大きく「顧客重視型(顧客ごとにカスタマイズした接客を重視し、1人ひとりを最大限満足させたい)」なのか、「回転重視型(なるべくたくさん施術をこなし、より多くのお客さまを満足させたい)」なのかによって、採るべき方針が異なります。左から、それぞれのタイプにふさわしいレイアウトを、店舗規模や将来設計別に見てみましょう。
ex.1人サロンの空間づくり(10坪)
スタッフを雇用せず、1人で開業する場合。基本的には、前サロンからの顧客(引き継ぎ客)を中心に据え、新規集客に依存しない店づくりを目指した方がよい。顧客の中でも、長く深い付き合いのある顧客層に好まれそうな空間づくりをし、ファン客化を狙うのも方法の1つ。
1人ひとりを最大限満足させたい
〈顧客重視型〉のレイアウト
●完全予約制とし、お客さまを重複させないよう
予約を取る
●「私のためだけに用意された空間と時間」だと
感じてもらえるよう、1席のみとし、セット面
でシャンプーもできるレイアウトとする
より多くのお客さまを満足させたい
〈回転重視型〉のレイアウト
●お客さまが重複しても対応できるよう、
セット面を3面設ける
ex.拡張や店舗展開を見据えた空間づくり①(15坪)
夫婦サロンなど、オーナーを含めたスタッフ数2~3人で開業する場合。初期投資額を抑えつつ、将来のスタッフ増員を想定して人材教育ができる環境を整えなければならない。他店との差別化を強く意識して顧客満足を優先するか、新規集客に注力して回転効率を高めるかによって、空間づくりのベクトルが変わる。
1人ひとりを最大限満足させたい
〈顧客重視型〉のレイアウト
●セット面とセット面との間に仕切りを設け、
プライベートな空間を演出する
●お客さまの移動を最低限にとどめるため、
レジカウンターを置かず、セット面での会計とし、
空いたスペースをゆとりある待合とする
より多くのお客さまを満足させたい
〈回転重視型〉のレイアウト
●スペースの許す限りなるべくたくさん、
セット面やシャンプー台を設置する
ex.拡張や店舗展開を見据えた空間づくり②(25坪)
オーナーを含めたスタッフ数4~5人で開業する場合。スタッフの成長性を考慮して大規模な新規集客を可能にすべく、なるべく多くのセット面やシャンプー台を設置するか、あえて客数・客席を絞ることで、高単価・高生産性のサロンとすることもできる。高単価サロンの場合、個室の設置も有効。
1人ひとりを最大限満足させたい
〈顧客重視型〉のレイアウト
●カウンセリングブースや個室を設け、
顧客のよりパーソナルなニーズに対応する
●ゆったりとした時間を過ごしてもらえるよう、
余裕を持ったレイアウトとする
●売りとするメニューのパフォーマンスを
最大限、発揮できる空間を優先する
より多くのお客さまを満足させたい
〈回転重視型〉のレイアウト
●競合店よりやや価格を下げ、大規模な新規集客をかなえて
回転率を上げるため、スペースの許す限りなるべくたくさんの
セット面やシャンプー台を設置する
提供価値に沿って、接客を含めてプロデュースしたコース仕立てのメニューづくり、そして、そのコースの目的をサポートする空間づくりがターゲットの満足を最大化します。
[特別コラム]
ロイヤルカスタマーのニーズ
サロンの強い味方であるロイヤルカスタマーのニーズを、データから読み解いてみよう。
そこには、ロイヤルカスタマー型サロンをつくるためのヒントが詰まっている。
※本コラムのデータはタカラベルモント㈱「SALON POS LinQ ユーザー調査2017」より
ロイヤルカスタマーの単価と来店回数
前回の特別コラムでは、ロイヤルカスタマー型サロンの強みについて解説しましたが、ここでは、ロイヤルカスタマーのサロンの使い方とお金の使い方、そして美容へのニーズについて見ていきましょう。
タカラベルモント㈱「SALONPOS LinQ」を3年以上使用し、サロン情報と顧客情報の蓄積があるサロン3,676軒分のデータを分析すると(図表➀)、一般的な良客の平均客単価は約1万円、年間平均来店回数は約4回ですが、ロイヤルカスタマーの場合、平均客単価は約1万2,000円、年間平均来店回数は約12回と、月に1度の来店サイクルが確立されていることが分かります。ロイヤルカスタマーの来店頻度は、一般的な良客の約3倍で、行きつけのサロンへ定期的に訪れる、複数の動機を持っていると推測されます。
また、ロイヤルカスタマーの利用メニュー別平均単価とメニュー別平均利用回数を割り出すと(図表②)、ヘアカラーとヘアケアメニュー(ヘッドスパ含む)の平均利用回数の高さが際立っており、特にヘアケアメニューについては、月に1度の来店のたびに利用しています。
これらのデータから浮き彫りになるのは、ターゲットの来店動機の主軸をヘアカラーとヘアケアメニューに設定し、来店サイクルとこれらのメニューの利用頻度を上げる仕組みをつくることの重要性です。ロイヤルカスタマーを集客できる可能性が高まります。
美を維持することへのこだわり
3,676軒のサロンのロイヤルカスタマーである600人へのアンケートからは、ロイヤルカスタマーの、美容への投資目的が浮き彫りになります(図表③/回答は全て選択式)。
「サロンに求めることはなんですか?」という設問への回答の第1位は「ヘアカラーやパーマなどの技術で、必ず自分の思い通りの髪型にしてくれること」で、第2位は「髪のダメージケアや頭皮のケアに注力し、コンディションを改善してくれること」です。この結果からも、ヘアカラーとヘアケアメニューへのニーズの高さが見て取れ、ロイヤルカスタマーは、髪の造形を整えることに加えて、コンディションをキープすることに高い関心があると読み取れます。
コンディションのキープに有効なメニューといえば、ヘアカラーのリタッチ、トリートメント、ヘッドスパの大きく3つ。本編で解説したメニューのコース化などの工夫によって、これら3つの訴求力を高めることが、ロイヤルカスタマーを集めるヒントとなりそうです。
高い期待値を持って初回来店
では、開業してからなるべく早く、なるべく多くのロイヤルカスタマーを集客するにはどうすればよいのでしょうか?
ロイヤルカスタマーの中で、初回来店から1年でロイヤルカスタマー化した人と、1年以上を経てそうなった人とでは、初回来店時のメニュー構成に違いがあります(図表④)。
1年でロイヤルカスタマー化した人のほとんどが、初回来店時からヘアカラーとヘアケアメニューの両方を利用しており、予約の段階で、「髪のコンディション維持に投資したい﹂という意欲を持ち、そのニーズを必ずかなえてくれるサロンであるという確信を持って来店したことが分かります。
一方、1年以上かかった人のほとんどが、初回はヘアカラーのみの利用でした。この違いに着目すると、ヘアカラーとヘアケアメニューへの強みをセットで打ち出すことで、ロイヤルカスタマー化するポテンシャルを持つ人を集客できる可能性が高くなると推測できます。また、1年以内にロイヤルカスタマー化した人は全体の61%であることから、ロイヤルカスタマーをつくるには、信頼関係を構築するスピードが重要であるともいえます。
ただし、ロイヤルカスタマーの世帯年収は700万円台が最も多く、決して富裕層中心ではありません(図表⑤)。ロイヤルカスタマーになり得るのは、単なる高級志向の人ではなく、美への投資意欲が高い人なのです。
ロイヤルカスタマーとのズレをなくす
ロイヤルカスタマーへの「理想的なサロンとは?」という設問への回答からは、接客スタイルやオペレーションに関して、いくつかの重要なキーワードが見えてきます(図表⑥)。いずれも、顧客とサロンとの間で、ギャップが生じやすいポイントです。
見えてきたキーワードは、コミュニケーション面で、「自分のためだけ」「プライベート性」、そして、時間面で、「リラックス・ゆったり」「待ち時間がない」です。
サロンでは、サービスの一律化や統一化を軸として、全ての顧客に同じ施術やサービスを提供しようとするケースがありますが、顧客は〝特別感〟を望んでおり、サロン都合の画一的な提案は逆効果となる可能性があります。また、「リラックスしてゆったり過ごしたい」からといって、「時間がかかってもよい」ということではない点にも留意すべきで、オペレーションに細心の注意を払う必要があります。
その他には、メニュー面で「メニュー・価格の分かりやすさ」「施術内容の選びやすさ」というキーワードも見えてきました。
これらのキーワードから、ロイヤルカスタマーへの接客に関する5つのポイントを割り出し(図表⑦)、ロイヤルカスタマーに
A「回転重視型」の空間で一般的なサービスを提供する美容室
B「顧客重視型」の空間で5つのポイントを押さえたサービスを提供する美容室
のそれぞれで、「合計幾ら支払ってもよいか」を尋ねたところ、Bの美容室ならば、Aのサロンより平均約2000円多く支払ってもよいという結果が出ました(図表⑧)。
この結果から、技術力の高さは大前提として、接客スタイルや空間デザイン面での差が、提供価値に大きな影響を及ぼしていることが分かります。
前回のコラムにて、3,676軒のサロンの総顧客数減少に対して、全売上合計は増加していること、そして、来店頻度が低く、年間支払金額が少ない顧客の数は減っているものの、ロイヤルカスタマー数は増えていることを紹介しましたが、このような市場環境であるにもかかわらず、ロイヤルカスタマー型サロンの割合はまだたった4%しかありません。
依然として、“失客する可能性の高い客層を新規集客すること”に追われているサロンがほとんどです。その中で、ロイヤルカスタマー型サロンに向けて押さえるべきポイントを盛り込んだ店づくりをすれば、「正の連鎖」(第2回を参照)が生まれる開業には大きな勝機があります。ロイヤルカスタマーは、経営の安定・成長をかなえてくれる、最も重要な存在なのです。
次回 店づくりを考える4ステップ
その4「立地&物件」を探す 配信中
第1回 あなたの経営方針を言葉にしよう
第2回 顧客とスタッフに支持される“店づくり”
第3回 店づくりを考える4ステップ その1「コンセプト」をつくる
第4回 店づくりを考える4ステップ その2「ターゲット」を定める
『決定版 美容室の開業
-3575軒の開業支援から導き出した
店づくりの考え方-』
監修/タカラベルモント開業支援チーム
A5判変型 240頁
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