美容室開業の成功率を高めるために結成されたタカラベルモント㈱の開業支援チームのノウハウが詰まった書籍『美容室の開業~3575軒の開業支援から導き出した店づくりの考え方』(女性モード社刊)。その本筋を大幅に抜粋し、美容室の開業から経営を軌道に乗せるまでの道筋を解説してゆく、全10回シリーズ。
前回までは、どんな店をどんなお客さまに向けてつくるのか、開業への土台づくり。それを実現するには、資金をどれだけ円滑に準備することができるかが、開業への行動として重要な第一歩となる。
美容室の開業 meme mag編
第7回 構想の妥当性を見える化する
数値シミュレーション
監修:タカラベルモント㈱開業支援チーム
数値シミュレーションの目的
第3回~第6回までで解説したステップに沿って、開業するサロンの構想を固めたら、その構想を実現するためにお金が幾ら必要で、そのお金をどうやって用意するのか(投資計画と資金調達計画)、そして、開業後、月々の収支バランスが適切かどうか(売上計画と支出計画)を詳細にシミュレーションし、策定した計画が現実的かつ妥当な内容なのかどうかを確認します。
このプロセスは、開業するサロンがビジネスとして成立し(=利益確保ができるか)、そして継続的に成長できる事業なのかどうかを検証する、重要なステップです。
以下、ケーススタディとして、開業希望者Aさんの事例に沿って数値シミュレーションの概要をつかみましょう。
パーパス=美を追求し、最高の形で提供することで人々を幸せにする
ミッション=女性の暮らしに、美しさと活力を!
ビジョン=高付加価値提供による高生産性サロンを店舗展開
生産性70万円/総スタッフ数20人/5年で3店舗/年商1億6800万円
バリュー=●一人ひとりの悩みに対するオーダーメイド処方
●日々の疲れを発散できる時間提供
●スタッフ育成プランの確立と活躍できる場の提供
開業希望者のAさんは、これまでの解説に沿って、上のように経営方針と、開業するサロンの構想を固めました。お金に関わることで、現段階で想定できているのは、「ビジョン」にある通り、短期間での成長と高い生産性を目標にしていること。そして、「メニュー」にある通り、平均客単価を比較的高めに設定していること。「オペレーション」と「規模」の内容からは、空間や設備に関する初期投資額や人件費が設定できそうです。
それではまず、開業に当たってお金が幾ら必要か、投資計画を立案していきましょう。
CASE STUDY
STEP 1
投資計画を立てる
投資計画では、「何に幾らお金が必要なのか」を整理します。投資計画は、大きく「設備資金」と「運転資金」からなります。大まかに言うと、設備資金は、サロンを形づくるために発生するお金。運転資金は、日々の事業を続けていくために必要なお金のことです。
Aさんは、店づくりの構想に基づいて相場価格を調べ、上に掲げた構想から下表の通り計画を策定しました。内装工事費については、まだ物件契約に至っていないため、余裕を持って予算を組んでおきます。
CASE STUDY
STEP 2
資金調達計画を立てる
投資計画で幾らお金が必要なのか割り出したら、「そのお金をどこから調達するのか」、そして返済が必要な借入に関して、幾らずつ、どのくらいのペースで返済するのかプランを組みます。これが、資金調達計画です。最終的に、投資計画と資金調達
計画のそれぞれの合計金額はイコールにならなくてはいけません。
Aさんは、自己資金や家族からの贈与だけでは資金を賄えないため、日本政策金融公庫から融資を受けることを希望しています。融資を受けられる金額は個々に異なりますが、自己資金を元に、必要な借入金額を算出して予算を立てておきます。
CASE STUDY
STEP 3
収支計画を立てる
次に、開業後、月々の収支が合うかどうか、売上計画と支出計画(2つを合わせて収支計画)を立てます。ここで投資計画の運転資金の妥当性や、資金調達計画の返済計画に破綻がないかどうかも確認します。
収支計画は、経営が安定した1年後の状態を想定して立案します。売上合計から支出合計を引いた金額が経常利益で、そこから自身の給与や借入返済額などを差し引いた金額が手元残り合計。Aさんのような個人経営の場合、経常利益から税金やサロンの将来への備えを差し引いた金額が自身の収入となります。
CASE STUDY
STEP 4
キャッシュフローを確認する
収支計画を立てたところ、利益が十分に確保できることが確認できたので、Aさんの計画には破綻がなさそうです。しかし、収支計画は経営が軌道に乗った1年後の状態を想定しています。果たして軌道に乗るまでの1年間、資金ショートを起こさずに事業を継続できるのでしょうか?
開業から1年後までのキャッシュフローを確認し、もし問題があれば、それをどのようにクリアするかを検討します。まず、①1年後→②半年後→③初月と逆算しながら、各月の売上目標を設定します。次に、初月の支出を算出し、③→②→①の順に手元残りを算出して、1年後までの軌道を描けるかシミュレーションします。
シミュレーションの手順
・まず、①1年後(目標数値)→②半年後→③初月の順に、各月の売上を設定。
・次に、初月の支出を算出し、手元残りおよび、運転資金残高を含めた手持ち現金を算出。
・1年後まで無理のない軌道が描けるかシミュレーションする。
CASE STUDY
STEP 5
将来の成長目標を設定する
開業1年後までの月次キャッシュフローにも大きな問題がなかったため、あとは計画を実行するばかりのAさん。ただし、Aさんには、「5年で3店舗まで店舗展開」というビジョンがあります。最後に、ビジョン実現のための具体的な月次収支の目安を得ておくため、将来の成長目標を設定しておきましょう。
5年で3店舗をかなえるためには、最低でも、3年後に2店舗目を出店したいため、3年後のスタッフ数を7人、1人当たりの生産性を80万円に目標設定。到達しなければいけない月間売上や、人件費のスケール感を捉えておきます。
[特別コラム]
融資申し込み時の審査のポイント
融資を申し込む際は、面談や書類上で審査を受けることになる。
美容師として堅実なキャリアを積み、まとまった開業資金をためていれば心配はないが、
しっかり準備を整えて臨みたい。
融資申し込みに際しては、申し込み先が指定する内容の借入申込書と創業計画書を提出します。創業計画書の内容は、事業計画書とほぼ重複します。これらの書類の他、自己資金の蓄積状況や、公共料金などの支払いぶりを確認するために過去数年分の通帳の提出も求められることがあります。
審査のポイントは、開業への情熱や計画の精度の他、〝過去のあなた〟の堅実性。下の勤務経験、自己資金、諸支払い。いずれも付け焼刃でクリアできることではありません。「いつか開業したい」と思い始めたら、意識的に取り組んでいきたいことです。
第1回 あなたの経営方針を言葉にしよう
第2回 顧客とスタッフに支持される“店づくり”
第3回 店づくりを考える4ステップ その1「コンセプト」をつくる
第4回 店づくりを考える4ステップ その2「ターゲット」を定める
第5回 店づくりを考える4ステップその3「メニュー&空間」を考える
第6回 店づくりを考える4ステップその4「立地&物件」を探す
『決定版 美容室の開業
-3575軒の開業支援から導き出した
店づくりの考え方-』
監修/タカラベルモント開業支援チーム
A5判変型 240頁
定価3,080円(本体2,800円、電子版とも)
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